実用新案は特許と違って費用の無駄

実用新案は特許と違って費用の無駄

実用新案権なんて取っても無駄だよと言うのは
弁理士の間では共通認識となっているのですが、
案外一般の方にはその辺が納得されておらず、
特許は無理だけど実用新案で、というような
理解のされ方がされているような気がします。

経緯として、もともと実用新案権は特許と似たような権利でした。
実用新案は高度でなくてもよい、という扱いで、
実際は同じように審査をすることで権利を発生させていました。
ところがある時期に法改正がされて、同じような法制度と
させていても意味がないから、実用新案は無審査登録制度とする、
という扱いになりました。諸外国も同様の制度を採用しているようです。
→ ドイツ・中国の実用新案登録は日本と違って意味がある

実用新案登録が無駄な理由

1)そういう訳で、無審査で登録になるぶん信頼性がないので、
「実用新案技術評価書」というものを取得しなければなりません。
これは、特許の審査と同様なのですが、特許が審査をして登録に
なるのに対して、実用新案は登録してから審査をする、
という制度になっています。審査対応まできちんと進めるなら、
結局特許出願の場合と、負担も費用も変わらなくなります。

実用新案登録が効果を発揮する場合というのは、
特許出願すれば特許が取れた発明をあえて実用新案登録する
ような場合だけです。それなら特許出願をした方がよいです。
特許になれないような考案なら、実用新案登録は、
技術評価書も否定的評価になりますし、
権利行使もできない権利なので、何の価値もありません。

2)審査の過程では、特許でも実用新案でもどの程度までの範囲で
権利を認めるのかについてやりとりをするのですが、
平たく言うと実用新案は主張可能な範囲が限られていて、
簡単に権利が無効になってしまいます。

3)そして、実用新案技術評価書を取得しないものについては、
第三者に権利を主張することは認められていません。
あくまで権利を持っていますと言えるだけ。
権利主張をした場合、相手から損害賠償を受けてしまいます。
また実用新案技術評価というのは審査ですから、この権利範囲は
ダメというやりとりが特許と同様に発生します。
そこでの手直しが制限されていて、権利行使をしようと思って
評価請求したら、権利としては無効となってしまった
ということが頻繁に起こりえます。

というのは、弁理士なら大体知っていることです。
ですが、旧制度の名残で実用新案の制度に対する
印象だけが残っていて、それでそういう問い合わせが
発生することがあるようです。
弁理士も弁理士で依頼があれば受けてしまうというところです。

4)権利になればよいというなら、「特許出願中」でも
話は同じではないでしょうか。特許の場合は補償金請求権と言って
権利になる前でも主張することは認められています。
実用新案は実用新案技術評価書がなければ権利主張してはいけません。

なお、こういう無駄な権利になっているのは日本固有の話で、
外国、特に中国では実用新案権は結構有効な権利になっています。

意匠登録をお勧め

1つは特許として権利取得するということです。
もともと特許のような審査を経て権利になっていたわけですから、
特許として出願すればよいのです。
けどそこまでの内容ではない、費用を安くしたい
から実用新案を考えたのですね。

その場合の、一番のおすすめは、意匠登録(いしょうとうろく)です。
実用新案登録できるものは意匠登録もできるからです。
意匠登録とは、なじみがないかもしれませんが、図面や写真で
創作した内容を登録しておく制度です。

実用新案は、物品の形状、構造、組み合わせが保護対象であるから、
実用新案登録できるものは意匠登録もできるはずです。

また実用新案は、本来は特許と同程度の費用となります。
一方意匠登録では、特許、実用新案の半額以下の費用となります。
特に特許庁の審査費用は1.6万円です。
出願時に20万円以上かかる特許、実用新案とは大きく異なります。

弁理士費用を出しても、特許庁が徴収する審査費用よりも安く済みます。
実用新案=合計で40万円以上、意匠登録=10数万円程度、となります。

そして実用新案と異なり、成立後直ちに権利を主張できます。

ではデメリットは何かというと、特許、実用新案は言葉で権利範囲を
特定するのに対し、意匠登録出願は図面、写真で権利範囲を特定します。
どこまでが権利範囲になり、どこが従来のものと違うのか、
は個別に見て判断しようというあいまいさがあります。

もっとも実用新案制度では、この辺の権利範囲の策定手続きを省略して
登録してしまっているので、あいまいさという意味では同じです。
権利の境界を明確にする過程が必要であるなら、そもそも特許をとるべきです。
この辺を考えると、実用新案を考えるのなら、意匠登録出願をすべきと考えます。

特許にするか、意匠にするか、という選択肢はあると思うのですが、
特許がダメな場合、実用新案だと登録になっても権利としてはほぼだめです。
ですので、特許がダメ、と判断された場合、選択肢としては
意匠登録しかありえないと思います。

詳しくは、

実用新案登録の受任費用が特許より格安な理由

通常は発明があった場合にはまず特許取得を検討されると思うのですが、
それでは難しそう、ということで実用新案登録を考えるのですね。
実用新案登録というのは、出願申請をすれば基本的に全部登録になります。
特許のように神経質に文章を検討しなくても登録になるのです。
しかし、実際に効力を生じさせるためには、「実用新案技術評価書」
というものを取得しなければなりません。
しかし、特許性のないアイデアなら、ここでほぼ否定的評価がでます。
それでも弁理士側からすると、登録になったことで責任は果たされている、
ということになるのですね。
簡単に登録になるというのはそういう落とし穴があるのです。
意地の悪い言い方をすると何となくそれっぽい文章を書いておけば、
実用新案登録というのはそれで登録まではなんとかなるのです。
それでいて、特許に準じた費用請求になるのですから、
弁理士としては非常に儲かる仕事なのです。
もちろん、特許と同様にまともに書いていったら同様の負担は
かかりますが、それだけの意味はあるのか、という部分
との兼ね合いもありますので、なんとなく宙ぶらりんです。

ただ、弊所としてはそれはどうか、と思うので、
できるだけ特許か意匠かで検討していただくようにしています。

実用新案法と意匠法の比較

実用新案登録も意匠登録も、「新規性」は必要です。
実用新案登録の場合は特許同様の「進歩性」、
意匠登録の場合は「創作非容易性」が求められますが、
まあ大まかには似たような概念です。

審査の俎上に載せたとき、あと他に何がポイントとなるかというと、
保護対象の問題です。具体的には、

  • 実用新案(考案)は、物品の形状、構造又は組合せ
  • 意匠は、物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であつて、
    視覚を通じて美感を起こさせるもの

これが対象となります。

物品であって形状を有するものは、両方の保護範囲内に含まれるのです。

実用新案法と意匠法の違い

何が違うかっていうと、
実用新案(考案)は、物品の形状を言葉によって定義し、
意匠は物品の形状を図面または写真によって定義する、
という点でしょう。

したがって審査や抵触判断の際は、
実用新案登録については、言葉で定義された範囲を基準に権利範囲を判断し、
登録意匠については、図面や写真の記載内容を基準に権利範囲を判断します。

傾向として、言葉で定義する実用新案の場合は、
範囲を広く定義することが可能であり、その分、
先行技術との特徴点を言葉で明確に差別化する必要があります。
きちんと差別化されない場合、実用新案技術評価を請求して、
審査結果が出た段階で、先行技術と差が出なくなります。
つまり権利の意味がなくなります。

意匠の場合、見た通りの内容で似ているか似ていないかなので、
通常の場合は、そのまま登録となることが多い一方で、
権利行使の場合に外観のごく一部の違いを
相手から主張される場合があります。

以上なのですが、実用新案の場合は、技術評価をするくらいなら、
最初から特許出願して審査すればよい訳で、
その自信がないから実用新案なのです。
なのでいざという時に使い物にならない可能性が非常に高いです。

意匠の場合は、少なくともデッドコピーは間違いなく封じることができます。
どの辺までかというのは変形の仕方次第ですが、見た目が似ていれば
主張の余地はありますし、権利行使上の制約はありません。

こう見ていくと、特許がなんだかんだで一番強いのですが、
意匠も侮れませんし、実用新案が一番駄目だなと
そういう風に考えております。

詳しくは、意匠登録出願意匠登録とは、へ。
またはお問い合わせください。

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